クレアチニンクリアランス(CCr)計算
クレアチニンクリアランス計算ツール
CCrとは
クレアチニンクリアランス(CCr)は、腎臓の機能を評価する重要な指標です。この値は、特に薬物投与量の調整に広く使用されています。
クレアチニンクリアランスの基本
クレアチニンクリアランス(CCr)は、腎臓が血液から老廃物(クレアチニン)を濾過して尿中に排泄する能力を数値化したものです。この値が低いほど、腎機能が低下していることを示します。
腎臓は薬物の排泄に重要な役割を果たすため、CCr値は薬物動態に大きく影響します。特に、腎排泄型薬剤の投与量調整には必須の指標となります。
クレアチニンクリアランスの基準値
- 正常値:男性 90〜130 mL/min、女性 80〜120 mL/min
- 軽度低下:60〜89 mL/min
- 中等度低下:30〜59 mL/min
- 高度低下:15〜29 mL/min
- 末期腎不全:15 mL/min未満
計算方法(Cockcroft-Gault式)
- 男性:CCr = [(140 - 年齢) × 体重] / (72 × 血清Cr)
- 女性:CCr = [(140 - 年齢) × 体重] × 0.85 / (72 × 血清Cr)
計算方法の詳細解説
Cockcroft-Gault(コッククロフト)式は1976年に発表され、現在も薬物投与量調整に最も広く使用されている計算式です。体重を考慮することで、個人の筋肉量の違いを反映できる利点があります。
実測値(蓄尿法)による計算
より正確な値を得るためには24時間蓄尿検査を行い、以下の式で計算します:
CCr = (尿中Cr × 尿量) / (血清Cr × 蓄尿時間)
尿中Cr:mg/dL、尿量:mL、血清Cr:mg/dL、蓄尿時間:分eGFRとの違い
eGFRは日本人向けに調整された式で、体表面積補正された値(mL/min/1.73m²)で表されます。一方、CCrは体格を直接反映した値(mL/min)です。特に薬物投与量調整ではCCrが好まれます。
血清クレアチニンとは
血清クレアチニンは筋肉のエネルギー代謝で生成される老廃物で、主に腎臓から排泄されます。血中濃度は腎機能の状態を反映し、CCr計算の重要な要素です。
血清クレアチニン基準値
- 男性:0.65〜1.07 mg/dL
- 女性:0.46〜0.79 mg/dL
基準値は検査施設によって若干異なる場合があります。
血清クレアチニン値が高い場合
血清クレアチニン値が高い場合、腎機能低下の可能性があります。ただし、筋肉量の多い人や高タンパク食摂取後も一時的に上昇することがあります。
高値を示す主な疾患:
- 慢性腎臓病(CKD)
- 急性腎障害(AKI)
- 腎前性または腎後性腎不全
特殊な患者集団におけるCCr
高齢者
高齢者では筋肉量が減少しているため、血清クレアチニン値が正常範囲内でも腎機能が低下している場合があります。75歳以上の高齢者では特に注意が必要です。
肥満患者
BMI 30以上の肥満患者では、実測体重ではなく調整体重または理想体重を用いたCCr計算が推奨される場合があります:
- 理想体重(IBW):男性 = 50 + 0.91×(身長cm - 152.4)
- 理想体重(IBW):女性 = 45.5 + 0.91×(身長cm - 152.4)
- 調整体重 = IBW + 0.4×(実測体重 - IBW)
低体重患者
極度の低体重(BMI 18.5未満)の患者では、Cockcroft-Gault式で算出されるCCrが実際の腎機能より低く見積もられる可能性があります。臨床判断との併用が重要です。
急性腎障害
急性腎障害(AKI)では血清クレアチニン値が腎機能の変化を正確に反映しないため、Cockcroft-Gault式による推算値は参考程度にとどめ、臨床状態や他の検査も考慮することが重要です。
薬剤師・医療従事者向けCCr早見表
CCr値(mL/min) | 腎機能区分 | 薬物投与量調整の目安 |
---|---|---|
≧90 | 正常または高値 | 通常量 |
60-89 | 軽度低下 | 多くの薬剤で通常量。一部の腎排泄型薬剤では注意 |
30-59 | 中等度低下 | 多くの腎排泄型薬剤で投与量減量または投与間隔延長 |
15-29 | 高度低下 | 大部分の薬剤で投与量減量または投与間隔延長。禁忌薬剤あり |
<15 | 末期腎不全 | 多くの薬剤で禁忌または大幅な投与量減量。透析の有無も考慮 |
注意事項
- 本ツールは医療従事者向けの参考値を提供するものです。
- 実際の治療方針の決定には、必ず医師の判断を仰いでください。
- 高齢者や極端な体格の方の場合、結果が実際の腎機能と異なる可能性があります。
参考文献
- 1. 日本腎臓学会編. エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン2018. 東京医学社, 2018.
- 2. Cockcroft DW, Gault MH. Prediction of creatinine clearance from serum creatinine. Nephron. 1976;16(1):31-41. DOI: 10.1159/000180580
- 3. 日本腎臓病薬物療法学会編. 腎機能低下時の薬剤投与量調節ガイドライン 改訂版. じほう, 2022.
- 4. 厚生労働省. 疾病、傷害及び死因の統計分類基本分類表(2013年版)第14章 腎尿路生殖器系の疾患.
- 5. Levey AS, et al. A more accurate method to estimate glomerular filtration rate from serum creatinine: a new prediction equation. Ann Intern Med. 1999;130(6):461-70.
- 6. 日本薬剤師会, 日本病院薬剤師会編. 腎機能低下患者への薬物療法実践ガイド. じほう, 2023.
よくある質問
クレアチニンクリアランス(CCr)とeGFRの主な違いは以下の通りです:
- 単位と補正:CCrはmL/minで表され、実際の体格を反映します。一方、eGFRはmL/min/1.73m²で表され、体表面積で標準化されています。
- 計算方法:CCrはCockcroft-Gault式を用い体重を考慮します。eGFRは日本人向けの推算式を用います。
- 使用目的:CCrは主に薬物投与量調整に使用され、eGFRはCKDの診断・病期分類に使用されます。
詳細な比較は計算式についてのページをご覧ください。
24時間蓄尿による実測クレアチニンクリアランスの測定手順:
- 蓄尿開始時に排尿し、その尿は捨てます。この時刻を記録します。
- その後24時間すべての尿を専用容器に集めます。
- 蓄尿終了時刻(開始から24時間後)に最後の排尿を容器に入れ、終了時刻を記録します。
- 同日に血液検査で血清クレアチニン値を測定します。
- 以下の計算式で算出します:CCr = (尿中Cr × 24時間尿量) / (血清Cr × 1440)
尿中Cr:mg/dL、尿量:mL、血清Cr:mg/dL、1440は24時間の分数
腎機能低下時に注意が必要な主な薬剤群:
- 抗菌薬:ペニシリン系、セフェム系、アミノグリコシド系など
- 利尿薬:ループ利尿薬、サイアザイド系利尿薬
- NSAIDs:イブプロフェン、ロキソプロフェンなど
- 抗凝固薬:DOACなど
- 糖尿病治療薬:メトホルミン、SGLT2阻害薬など
- 造影剤:ヨード造影剤
CCr値に応じた投与量調整が必要です。必ず最新の医薬品添付文書を確認してください。
Cockcroft-Gault式には以下の限界と注意点があります:
- 高齢者:高齢者では筋肉量が減少しているため、実際の腎機能より低く推定される傾向があります。
- 極端な体格:著しい肥満や痩せの場合、実際の腎機能と乖離する可能性があります。
- 体重変動:むくみなどで体重が増加している場合、実際の腎機能より高く推定される可能性があります。
- 筋肉量の影響:アスリートなど筋肉量が多い人では、血清クレアチニン値が高くなり、腎機能を過小評価する可能性があります。
- 急性期:急性腎障害の場合、血清クレアチニンの上昇が腎機能低下に追いつかないため、実際の腎機能より高く評価される可能性があります。
これらの限界を理解した上で、臨床判断に役立てることが重要です。